鎌倉での日々~初めて男に誘われた!?

前述したとおり、ぼくは小学校3年生になる時にそれまで通っていた御成小学校から鎌倉第二小学校に転校ました。

御成小学校は駅の向こうの学校でしたが、転校先の鎌倉第二小学校は反対側の山側でした。確か大塔宮近くだったように記憶していますが、家からの距離はそれほど変わらなかったと思います。

でも、小学校四年の時にぼくは東京に引っ越すことになったので、その第二小には一年しか通いませんでした。そのために、それほどたくさんの思い出があるわけではありません。何となく覚えているのは、それまでの御成小があまりにもぼろっちい校舎だったから、それに比べればきれいで近代的な学校だったなというような印象。御成小がどれだけぼろっちかったかというと、廊下を走っている時に、ボコッと床に穴が開いて、そこに片足を突っ込んでしまたことがあるくらいに古かったのです。

そんなわけで、鎌倉第二小での一年はあまり思い出というような思い出というのはないのですが、ぼくの妄想癖はその頃もずっと続いていて、例えば学校帰り、大塔宮の境内の裏手の茂みに入り込んで秘密基地めいた場所を自分で作ったりしていました。

そんなにたくさんの思い出がない第二小時代ではあるけれども、ひとつだけ、どうしても忘れられない出来事がありました。

その日は確か大雨の降った翌日だったように記憶しています。当時の鎌倉の山の方というのは、まだきちんとすべての道が舗装されていたわけではなく、ところどころ砂利道だったり、土の道路のままだったり、あるいは側溝が見えない場所にあったりと今から思えばまだまだ田舎っぽいところでした。

いつものように家に帰ろうとしたぼくは、何かに気を取られて、うっかり側溝に片足を突っ込んでしまったのです。泥だらけになり、悲惨な状態だったけれども、友だちもいなかったので、ひとりでとぼとぼと帰るしかありませんでした。

ところが、その時、上級生らしき男子生徒が「大丈夫?」と声をかけてきたのです。それが、見覚えのある生徒だったのか、それとも、それまで一度も話したこともないような生徒だったのか、それすらも覚えていませんが、ぼくよりも大人っぽい(背が高かっただけかもしれないけど)雰囲気だったのは覚えています。で、彼の家が近いから、うちに来て足を洗っていきなよ、と誘ってくれたのであります。

見ず知らずの人の家に行くのは躊躇したけれども、泥だらけで気持ち悪かったし、家まで歩くと15分以上はかかるから、どうしようかなと少しだけ迷いました。でも、その彼が何度もしつこく誘ってくるものだから、ぼくもお言葉に甘えようということになり、彼の後をとぼとぼとついていったのです。

ところが、自分の帰る方向とは逆の山の方に行くものだから、ぼくもだんだんと心配になってきました。というのも、その日はお能の稽古があるので、早く家に帰らなくちゃいけないことを思い出したのです。で、結局ぼくは最終的に彼の家には行かずに、途中で「やっぱりいいです」と帰ってきてしまいました。

今から思うと、ぼくは何かを察していたのかもしれない。

見ず知らずのその上級生がぼくのことを誘ったのは、単に親切心からではなかったのではないかと。もちろん、当時はそんなことはまったく思っていなくて、もしそういうことを察していたのだとしたら、それは本能的な何かだったのかもしれないけれども。

もしも、その時、ぼくがその上級生のうちに行って、何か特別な秘事めいたことがあったとしたら、ぼくの人生はまた大きく変わったかもしれません。

ともあれ、そんな出来事があったのは、今になって強烈な思い出として残っているのであります。

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この写真は、その第二小の時に材木座か何かに遠足に行った時のもの。もう、なんだかすっかりおねぇっぽくない?(笑)まだ、自分が何者かという自覚がほとんどなかったと思います。小学校3年なんて、そんなものかもしれないけれども。